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古典文学講座『とはずがたり』7月15日

 中世の浅草寺周辺

 『とはずがたり』巻四にあります武蔵国に下り、浅草寺に向かう場面を紹介しました。

 [私訳]六 第二夜、院の意に従う

 このようにしてその日を過ごしましたが、湯を飲むことさえ見向きもしませんでしたので、「ほかの病気だろうか」などと家の者は話し合っていて、すっかり日も暮れたと思う時分に「御幸」という声がするようである。またどんなことになるのだろうと思う間もなく、御所様は襖を引き開けてたいへん物慣れたご様子で入ってこられて、「気分が悪いそうだが、どうだね」などとお尋ねになるけれども、私はご返事申し上げる気にもならず、ただ臥したままでいると、院もそばに添い臥しなさる。いろいろと言葉を尽くしてお口説きになるが、今はどうなることか、本当とは思われないとばかり思われるので、人の言葉に嘘偽りのない世であったならば、という古歌を口にしたいのに加えて「『思ひ消えなん夕煙』といって言い送ってきたあの方に対して、御所様の方へ早くもなびいてしまったと知られるのも、あまりにも情愛のないことではないか、などと思いわずらい、少しのお返事も申し上げないでいると、御所様は今宵はひどく思いやりなくお振る舞いになり、この身に着けていた薄い衣はひどくほころんでしまったのだろうか、すっかり残るところなく失われていくにつけても、夜が明けていく「夜明け」というものがこの夜にあるというのさえ恨めしい心地がして、
  心ならずも解けてしまった下紐の結び目の節、その節のように、契りをかわしてしまった私はこれからどのような折節に憂き名(悪い評判)をながすことでしょうか。
などと思い続けていたのは、このような場合にでも物を考える心というものがまだ残っていたことだ、などと我ながら大変不思議な気がする。
「たとえ輪廻転生して姿かたちは生まれ変わるとしても、おまえとの契りはけっして絶えはしないよ。たとえ毎晩逢えないで夜を隔てることがあっても、けっして心の隔てはないのだよ」などと、誓いのお言葉を数々おっしゃるのを伺ううちに、夢を結ぶ間もない春の短夜は明けてしまって、暁の鐘の音がするので、御所様は、あまり明け切ってしまっては周囲の者に心配させるのが遠慮だからと、起き出られたが、「そなたにとっては名残惜しいというほどではなくても、せめて見送りぐらいしなさい」としきりにお誘いになるので、その程度のことまでも冷淡にしているわけもいかないと思って、夜通し泣き濡らした袖の上に、薄い単衣の着物ばかりを引きかけて部屋をでると、折からの十七日の月は西に傾き、東の空には横雲がたなびくころであったが、桜萌黄の甘の御直衣に薄紫のお召し物、固紋の御指貫をお召しになっている御所様のお姿が、いつもよりふと心に残る心地がしたのも、このような気持になるとは一体だれから教わったことなのかしらと、不思議な気がする。
叔父、善勝寺隆顕が縹色の狩衣を着て、お車を寄せた。殿上人としてはただ一人、為方の卿が、勘解由の次官と申して伺候しておられた。それ以外のお供は、北面の武士で下臈が二、三人と召次などでお車をさし寄せる。折知り顔の鶏の声も、寝ている人の目を覚まさせるようにしきりに聞こえてくるうえに、観音堂の明けの鐘の音は、ただもう私の袖に響くような心地がして「左右にも」とはこういう気持をいうのだろうかなどと考えていると、御所様はそれでもまだお出にならないで、「一人帰って行く道の見送りをおまえにしてほしいよ」とお誘いになるのも、「心も知らで」とあの光源氏に誘い出された時に夕顔の君が歌ったあのことになぞらえて考えるべき事柄ではないけれど、私は思い乱れて立っていると、くまなく照りわたっていた有明の月の光も、白むほどになってゆく。御所様は「ああ、いじらしい様子だな」とおっしゃって、私を車に引き乗せられ、お車を引き出してしまうので、私は父に暇乞いさえ言い置くことなく連れられて出て行ってしまうのは、まるで昔物語のようで、この先どのようになってゆくことだろうかと思われて、
  鐘の音に目覚めてというのでもなく、寝ることもなくつらい一夜が明けたあとの名残も悲しく思われる、この有明の空よ。
帰る途中も、たった今こっそりと連れ出して行く女に対するかのように変わらぬ愛をお誓いになるのも、おもしろいといえばいえるのであろうが、私にとっては心細さにつらさを添えて行く道なので、ただ涙があふれるばかりで、そのうちにお車は御所に着いた。 角の御所の中門にお車を引き入れて、御所様はお降りになり、善勝寺隆顕大納言に、「この子が、あまりにも頼りない赤子のような有様なので、放っておきにくくて連れてきたのだ。しばらくは人に知らせまいと思う。お前が世話をするように」と言い置かれて、常の御所へお入りになった。


 「二ヶ月余りの夏休み中、生活の中で触れられた文化と歴史にかかわるお話を、後期にみなさんで紹介しあいましょう。」という、御提案をしました。

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Keiko

Author:Keiko
写真:【 唱歌:「案山子」の立つ見沼氷川公園】

こんにちは! 日本古典文学
研究に従事しているものです。
子育てがほぼ終了という頃に
大学院に入学、現在は 古典
文学講座の講師をしています。

こちらには 自然と文化と歴史
を感じながら‘知るを楽しむ’
日常を記しています。         
     

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